老舗企業の家電参入から考える中小企業のDX

こんにちは、中小企業診断士の山上です。今回のコラムではDXの観点で最近気になったニュースを企業経営の観点で紐解いてお伝えできればと思います。
1. 老舗企業の家電参入が示す意外性と必然性
牛のマークでおなじみの牛乳石鹸を製造・販売する牛乳石鹸共進社株式会社が家電分野へ参入する、先日そんな意外なニュースを目にしました。同社が発表したのは、少量の水で髪を洗えるポータブル洗髪デバイス「SUSUGU(ススグ)」。老舗石鹸メーカーが家電を手がけると聞くと、一見すると事業の方向性が大きく変わったように感じられますが、製品の背景を知るとこの動きは決して突飛なものではなく、むしろ同社の長い歩みの中で自然に導き出された取り組みであることが見えてきます。
石鹸は洗面台や風呂場での利用が前提となる製品ですが、「水を十分に使えない」「浴室に行きづらい」という状況が少なからず存在します。高齢者や要介護者、入院中の方、さらには災害時などが典型例です。SUSUGUは、こうした環境下でも“清潔でいたい”という普遍的なニーズに寄り添うために生まれた製品です。老舗企業が社会の変化を見据え、清潔のあり方を新しく提案していると考えると、その意外性の裏に確かな必然性が見えてきます。
2. 企業の“らしさ”を生かした事業ドメイン再定義
この家電参入は単なる多角化というよりも、同社が掲げている「いつでもどこでも心地よい清潔を届ける」という本質的な使命を、改めて現代の環境に合う形で表現し直した結果と捉えることができます。これは経営戦略の視点では“事業ドメインの再定義”とも言えるもので、成熟した老舗企業が長期的に生き残るために必要な考え方です。
また、家電参入は流通チャネルの拡張という意味でも注目できます。これまで牛乳石鹸の主戦場はドラッグストアやスーパーでしたが、SUSUGUを通じて家電量販店、さらにはECモールでの露出も期待できます。顧客接点が広がることで、これまでとは異なる層にも同社のブランドを届ける機会が増えるでしょう。
さらに、介護・医療領域、防災分野といった新しい市場へのアプローチも見えてきます。単に家庭用製品のラインナップを増やすだけでなく、「清潔の提供方法を広い視野で捉え直した」という点で、同社がこれまで積み上げてきたブランド価値を無理なく拡張しているように感じられます。こうした姿勢には、中小企業が今後の事業を考える上でも多くの学びがあるように思います。
3. 価値と目的の見直しがDX推進のヒントに
老舗企業が自社の提供する本質的な価値や目的を見直し、新たな提供手段を模索した事例として、この家電参入はDXの観点でも非常に興味深いものです。特に、同社が最先端技術や大規模なデジタル投資に飛びついたわけではなく、「清潔をどのように届けるか」という根源的な問いに立ち返り、その答えとして適切な技術を選び組み合わせている点は注目に値します。
この姿勢は、昨今多くの中小企業に求められているDX推進とも重なるところがあります。DXの本質はデジタル技術の導入そのものではなく、事業の目的を見つめ直し、その目的を達成するために最適な手段としてデジタル技術を活用することにあります。
この事例はまさに“目的の再定義”を丁寧に行った上で、必要な技術を適切に取り入れている点で、変革のプロセスとして示唆に富んでいます。技術ありきではなく、目的ありきの取り組みが結果として新しい製品開発につながるという良い例だと言えるでしょう。
4.事業の原点を見つめ直し、変革の一歩を
この事例が示す示唆を踏まえると、DXを進めるために求められるのは“デジタルを使うこと”よりも前に、“自社の存在意義を見直すこと”なのだと感じます。自社は何のために存在し、誰にどのような価値を届けようとしているのか。この原点を明確にすることで、デジタル化や業務効率化の方向性も自然と定まっていきます。
事業の目的を見つめ直し、その目的に沿って改善する。その過程でデジタルの力を上手に取り入れることで、自社らしさを大切にしながら着実に変革への歩みを進めることができるのではないでしょうか。







