中小企業のSDGsとISO14001の連携活用事例について

近年、SDGsを踏まえた事業活動が求められる風潮が強まっている。

一方ISO14001:2015(以下EMSと表記)規格の「0.1 背景」には、次の記述がある。

「将来の世代の人々が自らのニーズを満たす能力を損なうことなく,現在の世代のニーズを満たすために,環境,社会及び経済のバランスを実現することが不可欠であると考えられている。到達点としての持続可能な開発は,持続可能性のこの“三本柱”のバランスをとることによって達成される。(以下省略)」

この記述はズバリSDGsのことを指している。

その上で、同規格の「0.2 環境マネジメントシステムの狙い」において、

「この規格の目的は,社会経済的ニーズとバランスをとりながら,環境を保護し,変化する環境状態に対応するための枠組みを組織に提供することである。(以下省略)」としている。

つまり、EMSはSDGsの3本柱の「環境の柱」について、企業の行う順守義務(法令類の順守)と地球環境保護に関する目標達成の取り組みを、支援する管理の仕組みである。

筆者は、EMSを適切に運用する100名ほどの中小企業(電気的及び光学的装置製造事業者)において、特段の仕組みを追加することなく、下記参考文献等を基に、当該企業の社長他関係者と協議しながら、SDGsの取り組みを会社の仕組みとして実装した。

具体的には、EMSによる管理活動に関連して、SDGsの17の目標の内で、「4)質の高い教育をみなに、6)安全な水とトイレを世界中に、7)エネルギーをみなにそしてクリーンに、8)働きがいも経済成長も、9)産業と技術革新の基盤をつくろう、11)住み続けられるまちづくりを、12)つくる責任つかう責任、13)気候変動に具体的な対策を、15)陸の豊かさも守ろう、17)パートナーシップで目標を達成しよう」の、10の領域において活動を行う事としている。これらはEMSの活動における、当該企業の環境側面或いは著しい環境側面と関係している。その上で、EMSを運用する組織の場合では、環境方針から目標管理の取り組みまで、既に仕組みがありこれを運用することになる。

ところで、SDGsのみに取り組み組織の場合には、SDGsに取り組む上での意思決定のための基準を示す「SDGインパクト基準Ver1」や、企業のためのSDGsの手引き書として、SDGsに取り組む世界中の企業に活用されることを目指しているツールである「SDG Compass」で、目標を達成する手段までの仕組みについては、ガイドラインがある。しかしながら、PDCA管理サイクルを回し、不都合な事象が発生した場合に是正処置を取り、継続的に改善活動を行うことを含めた管理の方法を、要求事項として示していない。

従って、筆者はこの点がSDGsの活動全体の中で、欠落している管理すべき事柄(推進手法)と考えている。

SDGsの推進手法上の欠点はともあれ、上述の事例に限らず多くのEMS運用企業では、少なくともSDGsの「環境の柱」について、運用中のEMS内で特定している環境側面や著しい環境側面に従って、既に取り組んでいると認識して良い。また、SDGsの「環境の柱」に取り組む手法として、EMSは有効な手法である。

因みに、ISO14001や ISO9001の要求事項の記載されている箇条と、企業がSDGsに取り組む上でSDGコンパスが示すステップ1~5の関連を下表に示す。

ISO9001・14001の箇条と関連するSDGコンパス
ISO9001、ISO14001の箇条関連するSDGコンパス
4 組織の状況ステップ1:SDGsを理解するステップ2:優先課題を決定する
5 リーダーシップステップ1:SDGsを理解するステップ4:経営への統合
6 計画ステップ2:優先課題を決定する
7 支援ステップ3:目標を設定するステップ4:経営への統合ステップ5:報告とコミュニケーションを行う
8 運用ステップ4:経営への統合
9 パフォーマンス評価ステップ4:経営への統合
10 改善

参考文献:

国連開発計画(UNDP)『SDGインパクト基準Ver1』2021年7月発行。独立行政法人中小企業基盤整備機構 近畿本部『中小企業のためのSDGs活用ガイドブック』2021年3月。東京都中小企業振興公社『SDGsハンドブック』2021年6月。地球環境戦略研究機関『SDG Compass』2016年3月。黒柳要次『SDGsをISO14001/9001で実践する』日本規格協会、2021年3月2日。日本規格協会『JIS Q 14001:2015 (ISO 14001:2015)』2015年11月。

以上

小松大三

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