企業経営で重みを増すガバナンス

中小企業診断士の内田英明です。

企業が関わる不祥事が後を絶ちません。ここ最近でも、大手中古車ディーラーによる保険金不正請求、芸能事務所での性加害などが明るみに出て、大きな問題となっています。不祥事発生の原因のほとんどがガバナンスの欠落です。

■そもそもガバナンスとは?

ガバナンスには統治、管理、支配という意味があります。企業経営においてはコーポレートガバナンス、いわゆる企業統治として扱われます。

コーポレートガバナンスにはさまざまな定義があります。一例ですが、38か国の先進国が加盟しているOECD(経済協力開発機構)では以下のように定義されています。

「企業の経営者と株主、および従業員、債権者等の利害関係者との関係を統治する規則と実践である。」

企業経営では営利を目的として事業活動が展開されています。その中で、株主だけでなく従業員や取引先、さらには社会なども含めた企業に関わるさまざまな利害関係者(ステークホルダー)との健全で良好な関係を維持・発展させる仕組みが、コーポレートガバナンスです。

■「法令違反」でなければ良いのか?

不祥事が表面化した際、「法令には違反していないので問題ない」という発言をしばしば耳にします。これは「コンプライアンス」という言葉をどのように解釈するかの問題です。コンプライアンスは今日では法令順守という意味で使用されていますが、もともとは、要求などに応じること、応諾を意味します。広義のコンプライアンスには、法律のみでなく社会常識や倫理なども含まれます。法令違反ではないとしても社会常識に反する行為があれば、本来はコンプライアンス違反です。「法令には違反していないので問題ない」という発言は、責任逃れの言い訳と捉えられても致し方なく、企業イメージのさらなる低下を招きかねません。

社会的な信用をいったん失うと、その回復は容易ではなく、企業としての存続が危ぶまれる状況に陥ります。ステークホルダーとの関係を維持・発展させるコーポレートガバナンスの前提として、健全なコンプライアンスは重要です。

■ガバナンスを強化するには?

①経営者の意識改革

ガバナンス強化の大前提は、経営者の意識改革です。ガバナンスが重視されている中で企業経営の持続性を高めるために、まず経営者自身のこれまでの姿勢や行動について振り返ってみる必要があります。

②牽制機能を備えた経営体制の整備

社長や一部役員の独断専行を抑止するための仕組みが必要です。たとえば「社長にものが言える」立場にある監査役や社外取締役を配置することが有効です。また、取引金融機関などの「外部の目」も牽制機能を発揮します。中小企業診断士もこの役割を果たせる立場にあります。

③内部統制の整備

社内で業務が適切に遂行されているかのチェック機能を発揮させるために、部署ごとの業務の範囲や責任を明確にする業務分掌や、定期的な内部監査の実施などが有効です。

④ 役員・従業員への教育

経営体制や内部統制を仕組みとして整備することは必要ですが、その仕組みが有効に機能するためには、役員・従業員への適切な教育が不可欠です。その際、経営トップがリーダーシップを発揮して、ガバナンスの意義やコンプライアンスについて理解させるための研修を継続することが重要です。経営者の本気度が、従業員の意識改革につながります。

■企業の健全で長期的な成長につながるガバナンス

昨今の企業経営では、自社の利益だけを優先するのではなく、株主や顧客、社会などのステークホルダーと良好な関係を築くことが求められています。ガバナンスの強化により、企業はさまざまなステークホルダーの支持や賛同を得ることができ、長期的な発展につながります。

中小企業診断士も今後ガバナンス強化への貢献が期待されていると思います。

以上

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