デジタル化の必要性とは?
みなさんこんにちは、中小企業診断士の河野重春です。
最近はDXに関わることも多くなり、デジタル化を積極的に進めている企業がある一方、本当に必要だと考えていない企業も多いと感じています。
今回は、そんなことから中小企業のデジタル化の状況について調べてみました。「中小企業白書2022年版」「小規模企業白書2022年版」にちょうど良いデータがあったので、それを紹介し「デジタル化の必要性を感じない理由」について考察したいと思います。
全国の企業を対象にしたアンケートで、デジタル化の取組段階を4段階に分けて報告しています。
「段階1」・・・紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態
「段階2」・・・アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態
「段階3」・・・デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態
「段階4」・・・デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態
(「段階2」とはメールやオフィスソフトを使っているような企業で、利用していても経理や給与ソフトまで位かと勝手に想像しています)
1.デジタル化の実態
中規模事業者、小規模事業者ともにデジタル化は進展しているようです。但し、両者を比較すると、小規模事業者はもともとデジタル化が遅れており、さらに進展も遅いようです。
私はこのデータをみて「段階3」以上が意外と多いという印象を受けましたが、みなさんどうでしょう?ただ、このデータは全国が対象のため、首都圏と地方の格差はわかりません。
◆デジタル化の段階
(2019年時点)
中規模事業者 「段階1」 9.6% 「段階2」49.9% 「段階3」37.0% 「段階4」 3.5%
小規模事業者 「段階1」21.5% 「段階2」47.0% 「段階3」27.4% 「段階4」 4.1%
(2021年時点)
中規模事業者 「段階1」 3.7% 「段階2」32.2% 「段階3」53.3% 「段階4」10.8%
小規模事業者 「段階1」14.2% 「段階2」37.3% 「段階3」40.3% 「段階4」 8.1%
(変化率)
中規模事業者 「段階1」▲5.9% 「段階2」▲17.7% 「段階3」17.3% 「段階4」6.7%
小規模事業者 「段階1」▲7.3% 「段階2」▲ 9.7% 「段階3」12.9% 「段階4」4.0%
2.デジタル化の効果
「段階3」以降の事業者は、労働生産性や売上高が増加しているようです。労働生産性や売上高の増加と、デジタル化のどちらが先なのか、鶏と卵ということも考えられますが、次に紹介する「今後もデジタル投資を増加する理由」として業務効率化や売上向上があることから、効果として認識はされているようです。
◆デジタル化の進展度合いと労働生産性・売上高の伸び率と業務効率化
労働生産性(千円) 「段階1」▲39 「段階2」▲48 「段階3」+262 「段階4」+824
売 上 高( % ) 「段階1」▲5.9% 「段階2」▲2.9% 「段階3」+2.8% 「段階4」+13.8%
3.デジタル化を進める理由
今後5年間の投資計画で「段階」別に最も多いのは、「段階1」では投資しない、「段階2」以上は同程度、が約6割となっています。
投資を増加させる事業者は、デジタル化が進む程、割合が高くなります。
◆今後5年間のIT投資計画について
増加させる 「段階1」13.3% 「段階2」22.2% 「段階3」30.9% 「段階4」37.5%
同程度予定 「段階1」26.3% 「段階2」59.9% 「段階3」63.2% 「段階4」56.5%
投資しない 「段階1」59.2% 「段階2」16.3% 「段階3」微少 「段階4」微少
今後もIT投資を増やす理由として、「業務効率化・コスト削減」「売上向上など業績にプラスとなる」といった利益に直結する点の支持が多いようです。
その他、「働き方改革への対応」「社内の前向きな意見」「業界内・同業他社のデジタル化への取組」などが上位にきています。
◆「今後5年間のIT投資を増加する理由」からの抜粋(「段階1」のデータなし)
業務効率化・コスト削減 「段階1」—– 「段階2」60.3% 「段階3」67.2% 「段階4」72.6%
働き方改革への対応 「段階1」—– 「段階2」50.2% 「段階3」51.7% 「段階4」49.4%
売上向上など業績プラス 「段階1」—– 「段階2」18.7% 「段階3」23.0% 「段階4」44.5%
社内の前向きな意見 「段階1」—– 「段階2」31.5% 「段階3」37.7% 「段階4」39.0%
業界内・同業他社取り組み 「段階1」—– 「段階2」27.2% 「段階3」28.3% 「段階4」30.5%
サイバーセキュリティへの意識「段階1」—– 「段階2」14.4% 「段階3」22.3% 「段階4」19.5%
新型コロナ感染症の影響 「段階1」—– 「段階2」15.2% 「段階3」16.2% 「段階4」17.7%
販売先からの要請 「段階1」—– 「段階2」14.0% 「段階3」 9.9% 「段階4」 8.5%
外部専門家・支援機関の助言等「段階1」—– 「段階2」 7.8% 「段階3」 6.6% 「段階4」 7.9%
仕入先からの要請 「段階1」—– 「段階2」 7.7% 「段階3」 5.2% 「段階4」 6.1%
着目したのは「段階4」と「段階2」に差がある項目で、デジタル化が進んでいる事業者と進んでいない事業者の意識の差が現れているのではないかと思います。
①「売上向上など業績にプラスとなる」25.8%
②「業務効率化・コスト削減」12.3%
③「社内の前向きな意見」7.5%
4.デジタル化しない理由
今後5年間のIT投資を減少させる理由として、「必要性を感じない」という理由が他に比べて抜きでており、「段階1」の事業者では8割を超え、「段階2」でも66%となっています。
◆「今後5年間のIT投資を減少する理由」からの抜粋
IT投資の必要性を感じない 「段階1」81.1% 「段階2」66.0% 「段階3」35.8% 「段階4」23.1%
投資効果がすぐに期待できない「段階1」12.1% 「段階2」14.8% 「段階3」16.0% 「段階4」19.7%
業績低下による予算削減 「段階1」 8.3% 「段階2」16.7% 「段階3」21.7% 「段階4」15.4%
過年度にシステム投資した反動「段階1」 0.8% 「段階2」 2.5% 「段階3」20.8% 「段階4」30.8%
クラウド化等で低コスト化した「段階1」 1.5% 「段階2」 1.5% 「段階3」10.4% 「段階4」15.4%
新型コロナ感染症の影響 「段階1」 1.5% 「段階2」 3.9% 「段階3」 4.7% 「段階4」 7.7%
その他 「段階1」 3.0% 「段階2」 5.4% 「段階3」 5.7% 「段階4」11.5%
特になし 「段階1」 8.9% 「段階2」11.3% 「段階3」 8.5% 「段階4」11.5%
「必要性」とは何でしょうか?その候補として、上のデジタル化を進める理由が考えられます。
「売上向上」や「効率化・コスト削減」などは利益に結びつき、「働き方改革」「社内の前向きな意見」などは、組織運営や情報共有に密接に関わってきます。
「段階1」「段階2」で必要性を感じない事業者は、分かっていて効果に期待していない(利益増、円滑な組織運営や情報共有の必要性を感じていなかったり、自事業においては十分な効果がないと考えている)のか?それとも「必要性の認識」にすら至っていないのでしょうか?
5.必要性の認識
「IT投資への課題」にある理由などから、デジタル化の必要性を感じていてもなかなか進展しない事業者も多いのでしょう。
ただ、「費用対効果が分からない」「適切なITツールやどの分野がデジタル化できるか分からない」といった割合が多いことから、「必要性の判断ができない」「必要性を認識できていない」事業者も多いのではないかと推察されます。
さらに、必要性を感じない事業者は情報収集もしないと考えられ、「情報収集しない」→「何がデジタル化できるかわからない」・「効果が分からない」→「必要性を感じない」→「情報収集しない」といったスパイラルに陥っているようにも思います。
◆IT投資への課題
①(約40%~50%)費用対効果が分からない・分かりにくい
②(約30%~40%)人材不足、従業員がITツールシステムを使いこなせない
③( 約25% )情報の流出が懸念される
④(約20%~25%)適切なITツールやどの分野がデジタル化できるか分からない
⑤( 約5%~10%)相談相手がいない
◆情報収集の状況
情報収集していない 「段階1」52.7% 「段階2」21.8% 「段階3」6.2% 「段階4」4.0%
今回は、白書のデータをもとに「必要性を感じない理由」を考えてみました。(他にも様々あるでしょう)
中小企業白書にはデジタル化の進め方が紹介されており「スモールスタート・クイックウィン」だそうです。
また機会があれば中小企業のデジタル化の進め方についても書いてみたいと思います。