中小企業のデジタルトランスフォーメーション対応
最近、Digital Transformation(以降単にDX)が経営改革には欠かせない、ということが巷でよく言われています。
日本政府もいわゆる「2025年の崖」問題に警鐘を鳴らしたり、デジタル庁を発足させたり、印鑑やFAXといった日本的な商慣行をやめてデジタル化を推進しようと政策を変えつつあります。またコロナ禍というきっかけから、以前よりもリモートワークが強く推奨され、実践されつつあります。
こういった中で「わが社もDXを進めていきたい」という中小企業の経営層の方々の声もちらほら聞くようになってきました。もちろん時流を捉えて挑戦していくことは素晴らしいことですし、今後のニューノーマルな時代を見据えてDX対応していくことは企業が生き残っていくためには避けて通れない道と考えたほうが良さそうです。
ただ少しだけ立ち止まって考えてみましょう。
例えばこれまで導入してきた販売管理・経理・グループウェアといったコスト削減に重きを置いたシステム化、ECサイトの構築やホームページやSNSでの情報発信など売上向上に重きを置いたシステム化などは単なるIT化であってDXではありません。
ではいったいDXとは何でしょうか?DXという言葉は広義から狭義まで色々な定義がありますが、私がしっくりくる中に「データに価値を見出し、付加価値を生み出していくこと」という定義があります。
例えば誰もがイメージしやすいもので言うとAmazonなどはその最たる事例でしょう。顧客ごとの嗜好や購買履歴、類似顧客が購入したものやその傾向などから、「こんな商品はいかがでしょうか?」と提案してくるアレです。これはできの悪いシステムだと一度間違ってページを開いてしまった商品を「この客はこれに興味がある」と勘違いしてその興味のない商品を何度も推薦してきたりすることがあります。しかしAmazonは怖いくらいに的確であり、それは膨大な過去データの蓄積とそれをあらゆる角度から分析する優秀なAIがあるから可能なのでしょう。そしてその推薦によって買うつもりのなかったものをつい買ってしまった経験が皆さんにもよくあるのではないでしょうか?(私はよくあります笑)
つまりDXは単なるIT化・システム化によるコスト削減、という日本人が大好きな枠には収まらず、データから付加価値を創造しそれを新たな収益源にしていこうというビジネスモデルの変革なのです。
ここでもう一度DXの定義に戻ります。付加価値を生むデータを活用していくためには、データの蓄積とネットワーク化が必要になります。またデータを蓄積するためにはデジタル化が必要になります。整理すると以下のような順番です。
①デジタル化
↓
②デジタライゼーション(データの蓄積とネットワーク化)
↓
③デジタルトランスフォーメーション(データ活用になる付加価値創出)
中小企業は①、よくても②あたりでとどまっていることが多いと思います。
上記の順番を意識せず何となく周りの「DX化しましょう!」の声に押されて何らかのシステム導入などをしても、つぎはぎだらけでランニングコストが高いだけの陳腐で小回りの利かないシステムができあがるだけです。また、部分最適であっても全体最適とは言えないものでしょうし、そんな状況で収益(ここでは売上)を上げていこうとするのは無理があるというものです。
またDXに限らず何でもそうですが、思いつきのIT化というのは、完成予想図もなく家を建てることや、地図も案内板も無く知らない土地に向かうのと同じで、たまたまそれなりにうまくいくことはあっても、自社が本当にありたい姿、ビジネスモデルの変革につなげることは難しいのではないかと思います。
いずれにせよDXというバズワードに惑わされず、腰を落ちつけて自社のありたい姿(〇年後のゴール)を見据え、全体の整合性の取れたシステム投資をしていくことで事業を「小さく始めて大きく育てる」確率が高まり、結果的に真のDXが進めていけるのではないでしょうか?
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中小企業診断士 等々力