会社にも「憲法」はあるか――分断の時代に考える経営理念

ワールドカップが盛り上がる中、一方では世界各地で戦争や紛争が続き、国内でも国旗、皇室、憲法、外国人政策などをめぐり、激しい言葉が飛び交っています。SNSを開けば、異なる意見に耳を傾けるより先に、「右翼」「左翼」とレッテルを貼り、気に入らない主張を「ネトウヨ」「共産党」とひとくくりにし、時には根拠の乏しいまま「中国のスパイ」と決めつけるような言説も目につきます。
もちろん、政治や社会について自分の意見を持つことは大切です。しかし、自分の正しさを確信するあまり、相手を敵とみなし、人格まで攻撃するようになれば、対話は成り立ちません。社会の分断は、決して政治の世界だけの問題ではありません。企業の中にも、世代、立場、国籍、雇用形態、経験の違いがあり、意見が一致しないことはむしろ当然です。
ここで考えたいのが、会社における「憲法」、すなわち経営理念や行動規範です。それは社員の思想を統一するためのものなのでしょうか?私は、考え方の異なる人々が、同じ職場で協働するための最低限の約束と考えます。「何のために事業を行うのか」「顧客や仲間をどう尊重するのか」「意見が対立したとき、どのように決めるのか」「決して許されない行動は何か」を明らかにするものです。
経営者が求めるべきは、全員が同じ意見を持つことではありません。むしろ、多様な意見が出ることが健全ではないでしょうか。相手の意見に反対であっても、理由を聞き、事実を確かめ、人格を傷つけずに議論できる組織・環境作りが大切です。
社長の個人的信条と、企業として守る原則も区別しなければなりません。中小企業では社長の発言がそのまま会社の見解と受け止められやすく、従業員や顧客、取引先を不用意に遠ざける危険があります。
さらに、分断は経済的な代償を伴います。日本の食料自給率はカロリーベースで38%、エネルギー自給率も16.4%にとどまり、海外との取引や協調なしに経済と暮らしを維持することは困難です。国際的な対立が物流や原材料の調達を滞らせれば、その負担は物価高や品不足となって企業と消費者に返ってきます。
外国人労働者についても同様です。国内では既に257万人を超える外国人が働いています。人手不足が深刻な介護、建設、製造、物流、宿泊・飲食などの現場で、外国人を一律に排斥して、いったい誰が得をするのでしょうか。働き手を失い、社会インフラや地域の事業が維持できなくなれば、最後に困るのは私たち自身です。もちろん、受入れ制度の課題やルール違反には厳正に対応すべきですが、それは国籍による一括りの排斥とは別の話です。
異なる意見を排除する組織は、一時的にはまとまって見えます。しかし、やがて誰も本音を言わなくなり、変化への対応力を失います。分断の時代だからこそ、会社の「憲法」が必要です。正しさを競うのではなく、違いを抱えたまま協働できる原則を持つこと。それこそが、不確実な時代を生き抜く企業の強さではないでしょうか。
中田麻奈美







