人材市場が荒れる時代に企業は何をすべきか

中小企業診断士の竹村哲司です。経理担当者を募集したある企業で、こんなことがありました。慢性的な人手不足のなか、「即戦力の経験者」を条件に採用活動を行い、「経理経験あり」とのことで採用を決めました。しかし実際に任せてみると、通常の経理処理にも時間がかかり、決算業務には対応できない状況でした。会社は業務指導に多くの時間を費やし、本人もプレッシャーを感じたのか数か月で退職してしまいました。

このような話は、特別な事例ではありません。近年、同様のケースを耳にする機会が増えています。

背景には、人材市場の構造的な変化があります。帝国データバンクの調査によれば、正社員の人手不足を感じている企業は51.6%(2025年10月時点)に達し、4年連続で半数を超える高止まりが続いています(「人手不足に対する企業の動向調査」)。さらに同社の別の調査では、従業員の退職や採用難を要因とした「人手不足倒産」が2025年に427件発生し、3年連続で過去最多を更新しました(「人手不足倒産の動向調査(2025年)」)。人材問題は、企業存続に関わるリスクとなっています。

人口減少が進むなかで、人材不足は一時的な問題ではなく、企業経営の前提条件となりつつあります。

しかし現場では、依然として「即戦力の経験者が採れれば解決する」という発想が根強くあります。企業は経験者を求め、求職者はより条件の良い企業へ移ります。その結果、経歴だけでは実力が見えない採用や短期間での離職が繰り返され、採用のミスマッチが生まれやすくなっています。
こうした状況を踏まえると、企業は人材に対する考え方を大きく転換する必要があります。

近年注目されている「人的資本経営」とは、人材を単なるコストではなく、企業価値を生み出す重要な資本として捉える考え方です。上場企業の情報開示や大企業の経営戦略として語られることが多く、中小企業には縁遠いように感じられるかもしれません。しかし本質は「人材を活かす経営」であり、一人ひとりの役割が大きい中小企業にこそ、その重要性は高いと言えます。

業務の標準化、教育体制の整備、役割の明確化——人材が力を発揮できる組織をつくることは、特別な制度ではなく、日々の経営の積み重ねです。

人口減少社会において、人材は「確保するもの」から「育て、活かすもの」へと発想を転換しなければなりません。その第一歩として、自社の業務の進め方や人材育成の仕組みを見直してみることが、今まさに求められているのではないでしょうか。

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