近未来に実現する水素活用社会

飯田市にあるエス・バードの敷地内で、太陽光と水を使ったグリーン水素製造施設の建設が始まろうとしている。南信州ではこのグリーン水素の製造と水素を活用した実証タウンの構築に向けて動き出している。
昨年の12月に人工光合成によるグリーン水素生成研究の第一人者である信州大学の堂免一成特別特任教授の講演会がエス・バードで開催されたのを聴講し、合わせて人工光合成によるグリーン水素製造のデモ機【写真】による実演を見ることが出来た。脱炭素社会の実現に向けて様々な動きが活発化する中において、究極の達成手段となる取組であることを実感した。

 

水素の種類と特徴
水素は生成過程によって「グリーン水素」「ブルー水素」「ブラック水素」などに分けられます。
【グリーン水素】
再生可能エネルギーを使って水を電解するなどして作られる、CO2の排出がほぼない水素。
【ブルー水素】
石油や天然ガスなどの化石燃料を使ってCO2と水素に分解し生成する水素。排出されるCO2は回収し地中深くに貯蔵されるため、根本的な排出を抑える。
【ブラック水素、グレー水素】
化石燃料を使って生成する水素であるが製造過程で排出されるCO2は回収されない。CO2排出が大きいという問題がある。
【ホワイト水素】
天然水素で、長野県白馬村の白馬八方温泉の源泉から国内では唯一湧出が確認されている水素。

これらの水素の中で未来の水素社会を支えるのは、言わずもがな、「グリーン水素」です。しかも堂免教授が開発を進める人工光合成による水素生成では電力を使わず太陽光と水で、また比較的安価な製造設備で生成するためコスト的にも究極のグリーン水素となります。

水素を活用できる分野と機器類
水素はさまざまな分野で活用が期待されています。しかも水素を燃焼させた時に排出されるのは水であり、水から生成した水素が水に戻る完全な循環型・持続可能エネルギーです。水素を活用できる分野と機器類は次のようなものがあります。
【交通機器】
水素エンジン車、水素燃料電池車、燃料電池バス、鉄道、航空機
【発電】
水素ガスタービン発電、混焼発電
【居住・社会基盤】
家庭用燃料電池(エネファーム)、スマートシティ
【産業用】
製鉄手法の水素への置き換わり、化学製品の生産
【船舶】
水素船、アンモニア船
このように、水素は実際に「移動」や「生活」「産業」にまで一部では活用が始まっています。

水素が実現する究極的グリーン環境社会
このような水素技術が本格的に実用化されると、社会は劇的に変わります。
無排煙の交通機器が街を走り、静かでくさみもない街に。
家庭では、水素から生まれた電気で自立的に生活を過ごせる。
工場ではCO2排出なしで製造が続けられる。
余裕を持った電力がむらなく流れる社会。
それは、正に「グリーン・プレミアム社会」と呼べるものでしょう。
長野県はガソリンや灯油などの価格が全国で最も高いレベルにある県です。石油類の移送コストがかかることなどが高価格の要因に挙げられています。このような状況にあって、安価なグリーン水素の地産・地消が出来るようになれば石油高価格問題が解消されるだけでなく、クリーンな長野県のイメージが更に高まります。しかも、長野県は豊富な水資源に恵まれており、水素製造資源には事欠きません。また、南信州地域の日照時間の長さは全国でもトップクラスです。

水素活用社会実現に向けての課題
水素活用社会の本格的実現には、まだ課題もあります。
光合成触媒など水素製造コストの低減
人工光合成により生成する水素の回収率を高めること
社会実装のための水素ステーションの普及や、水素を活用する機械や機器類の開発及び普及
などですが、今後確実にグリーン水素の製造および活用社会実現の機運は高まっていくことになります。
社会で使用するエネルギーが変わることは各種機器類も前述のように変わることになります。また水素社会を活用したサービスにおいても新たな需要が生まれることになります。このような需要を取り込むことが出来るようにグリーン水素の動向に留意しておきましょう。

中小企業診断士 片桐文夫

関連記事

  1. 創業時の心構え
  2. 心の奥に潜む購買理由:あなたのインサイトは?
  3. 倒産、廃業の度に失われる雇用機会
  4. 社員の「主体性」を育て、利益体質な会社へ
  5. 新聞について
  6. 新型コロナウイルス特別相談窓口の現場から
  7. 異議あり!「事業再構築補助金」 その2
  8. 行きはよいよい?
PAGE TOP