「インクルーシブデザイン」を考える
長野県中小企業診断士協会の会員の五味誠です。
昨年秋に長野市において、また本年10月8日に同じく長野市、そして11月16日に松本市において、長野県民参加型予算を活用した「共生社会の実現に向けた体験機会創出事業」の一環として、「障がい当事者と共に街歩きを行い、社会にある障壁に気付き、誰もが暮らしやすい社会の実現について考える『インクルーシブデザインワークショップ』」が開催されました。これは、長野県が推進している「共生社会の実現」について、地元民間企業・地元放送局が主導し、そこに地元中小企業や学生の皆さん、地方金融機関などが協働して実施したものであります。
「インクルーシブデザイン」という言葉は、ロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アートのロジャー・コールマン教授が1991年に初めて使ったもので、今回、長野県でのワークショップの講師であった㈱インクルーシブデザインソリューションズでは、「インクルーシブデザインとは、高齢者、障がい者、外国人など、従来、デザインプロセスから除外されてきた多様な人々を、デザインプロセスの上流から巻き込むデザイン手法。インクルーシブデサインは、超高齢社会の様々な施設、プロダクト、サービス、Webなどをデザインするための大変有効な手法。」としています。
また「県民参加型予算」とは、「県事業に県民の新たな発想や問題意識を取り入れるため試行している県民参加型予算(提案・共創型)において、県が提示するテーマ(課題)に対して、県民等との対話を通じて課題解決に繋がる効果的な事業を共に創り上げるため、共創による事業構築を実施する。」を目的としています。
そして、このワークショップは、令和4年4月に「長野県障がい者共生条例」が施行され、共生社会の実現に向けて、県・市町村・事業者・県民それぞれが当事者となり、具体的なアクションを起こしていくことが求められていることを踏まえ、「共生社会の実現に向けた体験機会の創出~『障がいの社会モデル』という考え方に対する理解を促進し、障がいのある人とない人との間にあるバリアを解消する事業~」として、開催されたものです。
それらを踏まえて、今回のインクルーシブデザインワークショップは、まず座学にてインクルーシブデザインについて習得し、6人ずつ5つのチームに分かれ、1チームに1人、リードユーザー(障がいがある方でファシリテーターとして認定されている人)が入り、そのチームで日常生活を送る上での課題を観察、発掘をし、その課題を解決するための手法、サービス、商品を構想するために、フィールド(中心市街地)に出ました。中小企業の会社員や学生さんなど約30人が参加し、車椅子の利用者や視覚障害者と一緒に街を歩くことで健常者の目線では気付かない課題を見つけ、解決のためのサービスを考えました。
インクルーシブデザインは、障害者や高齢者に経営企画や商品開発に入ってもらい、これまでにない発想で商品展開やマーケットインを創造していく考え方で、Apple社やIKEA社などの海外大手企業がその動きを先行し、現在では本邦にもその導入が広がっています。今回は、その動きを「地方」と「中小企業」に広めようとするものであります。
中小企業の経営の視点にも、「共生社会」や「インクルーシブデザイン」を積極的に取り込んでいただき、新たな独自性と社会性を創出してみてはいかがでしょうか。
長野県プレスリリース
https://www.pref.nagano.lg.jp/shogai-shien/happyou/061004-2press.html
(なお本稿は、今回のインクルーシブデザインワークショップ主催者のご理解をいただいたうえで、掲載いたしました。)