伴走型支援へのISO9001の活用について

長野県中小企業診断士協会 理事 小松大三

伴走支援または伴走型支援という言葉は、令和4年以前も、折に触れ使われていたように思います。その後、中小企業庁では、令和4年3月、中小企業・小規模事業者に寄り添った望ましい支援の在り方の検討を進め、その理念的なものを「経営力再構築伴走支援」として打ち出しました。この辺りから、私たちは伴走支援という言葉を、より多く見聞きするようになったのかもしれません。令和5年6月中小企業庁発行の「経営力再構築伴走支援ガイドライン」によると、伴走支援は次の様に読み取れます。

伴走支援は、企業の「技術的問題」(問題の定義が明確_何が問題か分っている)の解決を主眼とする既存の支援策を補完しつつ、その上流部分の「適応課題」(問題の定義がはっきりしない_問題の発見に学習が必要)に対処するめの支援の枠組みです。この支援の枠組みの要点を、以下に述べる「プロセス・コンサルテーション」としています。その支援の枠組みの要点とは、まず、経営者との対話と傾聴を通じて、経営者に企業の本質的な課題への気づきを促します。次に、内発的動機付けにより社内の潜在力を発揮させます。支援者はこのように、企業による課題解決を支援することで、企業の「自己変革力」の向上、「自走化」の促進を図ります。この支援方法では、経営者が主体となって課題を設定し、企業自らの課題解決プロセスを、側面から支援することで、持続的に経営力を高めていくアプローチを取ります。

つまり、信頼できる第三者による伴走支援では、経営者は自社や自身の課題に気づき、社員とともに潜在力を発揮して課題解決に取り組み、自走化を実現していくことができます。

筆者は、中小企業診断士として開業後、20年近く当士業を生業の一つとしてきました。この間、所謂、補助金申請の代書屋的業務は一切行わず、上述の定義は曖昧な中でしたが伴走型支援を行ってきました。

このような業務の傍ら、ISO9001等の認証審査にも従事し、審査員としての専門知識とスキルの維持・向上に取り組んで来ました。そして、この2つの異なる業務に従事して数年後に、中小企業・小規模事業者への伴走型支援に、ISO9001の専門知識やスキルが有効活用出来ることに気づきました。その後は、こうした専門知識やスキルの向上に努めて、伴走型支援に活用することを心掛けています。

ISO9001に関するどのような専門知識やスキルが、中小企業・小規模事業者への伴走型支援に活用出来ているか、以下の様に図表を中心に概説します。

 


上図において、ISO9001の適用可能な範囲を押し当てた場合、「ビジョン」以下「個別事業戦略の実行計画」へのPDCAの適用までが対象となります。つまり、左図内で「企業戦略」とした範囲になります。
従って、企業全体の活動を俯瞰し現状把握に努める癖がつくことで、経営者が気づかない事柄を、支援者として見出し話題として提起できる可能性が高まります。

また、9001に組み込まれている基本的概念の「プロセスによる活動把握法」「PDCA]「リスクベース思考」は、伴走型支援においても有益なツールとなります。

「プロセスによる活動把握法」(規格の言葉ではプロセスアプローチ)とは、企業内の主要な活動を、漏れなく・ダブりなく括り出した個々のプロセスを、主要なインプットとアウトプットを矢印線で接続し、模式図化したものです。このような模式図により、企業の事業活動の概要が把握出来ます。
上図は、実際に金属切削加工を行っている企業の、付加価値を生み出すプロセスの関係性を示しています。

 

「PDCA」は広く知られているフレームワークです。しかし筆者は多くの適用事例で、活用が浅いと感じています。特にCA(チェックとアクト)において、経験学習を通した新たな知識捻出の取組が不足していると考えています。
上図では、目標管理(改善のための取組)と維持管理(現状を維持するための取組)のPDCA管理サイクルを模式図化しています。

 

次に、「リスクベース思考」についてです。下記左側はリスク対応の選択肢を示します。右図はその選択肢の「発生頻度低減・結果を変える」ことで、リスクの顕在化を防止する取組を模式図化しています。

リスクベース思考とは、リスクの規模に従って、管理活動の程度を変えることです。

筆者は、長野県中小企業診断士協会内の「ISOMS自己適合宣言支援研究会」に所属し、隔月・年6回の研究会活動を通して、中小企業におけるISOマネジメントシステムの有効活用法の研究を、他のメンバーと行っております。紙面の関係で、ツールとしての適用法は説明が概要に留まっております。従って、本稿はその点で大変不親切なものです。そこで、上記に紹介した伴走型支援への活用方法について、ご興味のある方は是非、当研究会への参加に向けて当協会事務局にお問い合わせください。

関連記事

  1. 企業としてのメンタルヘルス対策
  2. 奥が深いもの
  3. ギリギリ族のHACCP
  4. 公民連携ファイナンスと診断士
  5. 事業承継のタイミング
  6. 行動してますか
  7. 広島カープのリーグ優勝から学ぶ
  8. 環境経営について
PAGE TOP