持続可能な観光業を目指して
みなさんこんにちは。野沢温泉村で旅館を営みながら診断士活動を行っている河野今朝成と申します。当地は、温泉めぐりや広大なスキー場、そして野沢菜の発祥地として有名な観光地です。最近では、特に冬季にインバウンド客で賑わうことでも知られるようになりました。野沢温泉村には約280軒の小規模な宿泊施設があり、迷路のような温泉街には多数の個性的な飲食店や土産店が立地しています。湯巡りや温泉街散策が楽しめる地域です。さらに、豊かな自然環境を活用して、グリーンシーズンにはマウンテンバイクやSUPなどのアクティビティも盛んになっています。
私はこのような環境で、旅館業を営む社長として、また地域の観光事業者様の経営支援を行う診断士として活動しています。今回は、私の活動を通じて見えてくる観光産業の“生の声”をいくつか綴ってみたいと思います。
1.季節営業依存型の弊害
先シーズンはインバウンド需要が戻ってきて大変盛況でしたが、一方で人手不足を助長する要因ともなっているように感じます。冬の需要が過熱しているため、事業者は“稼げる時に稼ぐ”精神から、冬100日間は“休み無し”が当たり前の様子。途中で心身共に疲弊しても、「100日24時間戦う!」かのように頑張ります。「今しか稼げないから」と。
この状況を否定するつもりはありませんが、その反動も指摘できます。オーバーワークによる労働環境の悪化、冬季以外への経営資源投入の見送りなどです。必要な時だけ人材を求める採用方針は、通年雇用の優先度を低下させ、その結果、通年営業も困難になり、冬季のみに依存する営業スタイルを更に後押しします。しかし“必要な時だけ”ではなかなか人材確保ができず、結果的に稼ぎ時の冬季は人手不足になりがち。事業主家族が体を張ってやり切るのが状態化している様子です。そして疲れ果てた反動で、それ以外のシーズンは営業せず…。このようにスパイラル化しているようにも見えます。
2.外部資本の過度な流入による地域文化の脆弱化
ビジネスチャンスが伺える地域として、買収など外部資本の進出が目立つようになりました。円安も手伝って、特に外国資本の流入が多いです。資本流入は活性化の一因となる一方、住民流出のきっかけにもなり得ます。買収後もそのまま雇われ経営者として定着してほしいところですが、なかなかそうもいきません。田舎コミュニティとはそういうものです。
観光地の肝と言える地域の「文化」は、そこに定住する住民が長い時間をかけて磨き上げてきた“日常”であり生活の“知恵”です。郷土料理や祭りなどの慣習がその典型。その根幹を成す住民の減少は、地域文化の脆弱化を促進するリスクとなり得るでしょう。
進出企業はとても合理的で、基本的には儲かる冬だけ営業するスタイルです。そのため地域全体としては、益々夏季の営業力が低下していくことも考えられます。
3.経営者育成による地域文化の持続可能性
地域の事業者様を見ると、年間の利用人数や平均単価が把握されておらず、またコスト管理も精緻でない状態を目にします。私たち宿泊事業者は、顧客1人当たりの粗利が大きいため、確かに固定費は大きいですが、損益分岐点を突破した後は大きな収益が見込めるビジネスモデルです。したがって、まずは日々の会計管理の徹底をお話しさせていただいています。そして、どのように損益分岐点を突破するか。事例を提案しながら一緒に考えていると、次第に社長さんの目がキラキラしてきます。その瞬間はとても嬉しく、頼もしく感じます。
ある施設様では、冬季をむかえる前にあと少しで損益トントンに到達することが把握できるようになりました。そして冬季はそれほど頑張らなくても大丈夫、定期的な休館をとろう、と考えられるようになり、結果として年間を通じて余裕を持った営業ができるようになりました。
伴走支援しながら、いずれは自立していく。それまでの過程は経営者育成であると考えています。個人事業主が多い地域にあって、私も一人の経営者として、共に学ぶ機会の創出をこれからも促進したいと考えています。