生産性を向上させるカギは?

中小企業診断士の内田英明です。

「新型コロナウィルス」の経済活動への悪影響が顕在化しつつあり、サービス業を中心に中小企業の経営への打撃が深刻になってきています。終息の目途が不透明で、資金繰りの問題も懸念されますが、自助努力での対応には限界がある事象であり、ある意味で時間が解決してくれる問題です。

こんな時だからこそ、繁忙時にはなかなか着手できない「次」を見すえた前向きな取り組みが大切だと思います。

 

■重要な経営課題である生産性向上

さて、ここ数年の経済産業行政の施策において、特にサービス産業の生産性向上を意識したものが多くなっています。生産性向上は、特に中小のサービス業にとって重要な経営課題であり、いま一度生産性について理解を深めることは、前向きな取り組みにおいて何かと有用です。

 

■「生産性向上」とは何をすればいいのか?

「生産性」とは、インプットに対するアウトプットの水準であり、高齢化と人口減少が進行する日本においては、特に労働生産性は重要と言えます。労働生産性は、投入した労働量に対して算出された付加価値額で表されます。

★労働生産性=付加価値額÷労働投入量

生産性を向上させるには、分母である労働投入量を削減するか、分子である付加価値額を増加させるか、あるいはそのいずれも、ということになります。

 

■日本の「生産性」の国際的な水準は?

(公財)日本生産性本部はOECDデータベース等をもとに「労働生産性の国際比較 2019」を公表しています(参考→https://www.jpc-net.jp/research/list/comparison.html)。それによれば、日本の時間当たり労働生産性は、OECD加盟36カ国中21位となっており、G7(主要7カ国)では最下位です。「GDP世界3位の経済大国」というのはずいぶん耳触りが良い話で、1人当たりGDPではドイツ、イギリス、フランスを下回っています。

日本の生産性低迷は、「産業のサービス化」という構造的な要因が影響しています。サービス化の進行は、労働集約的な業務を増加させており、特に日本ではもともと非効率的であったホワイトカラーの間接業務がほとんど改革されないままであったことが、マイナスに作用しています。ということで、上述の経済産業行政の施策は、やはり妥当だと言えそうです。

 

■単なる労働時間の削減ではダメ!

「分母」ではある労働投入量については、実はもう少し深掘りする必要があります。つまり、投入する労働を単なる「量」だけでなく「質」からも考えるのです。「働き方改革」で労働時間を減らすだけでなく、「質」を高めなければ、単に「働かなくなっただけ」です。

「質」の向上については、サービスの「需要変動性」への柔軟性を高めるマルチタスク化などが有効です。マルチタスク化で有名なのが、「星のや」などを運営する星野リゾートで、オペレーションの生産性を高めるなどの効果が出ています。

 

■分子への着目度は低い?

「働き方改革」で「分母」を小さくすることが注目されがちで、「分子」である付加価値の引上げへの取り組みはまだ弱く、今後の大きな課題です。サービス産業での付加価値引上げに向けては、顧客満足度(CS)の向上、サービスの有料化が必要です。

CSレベルの向上による顧客との良好な関係は、顧客生涯価値(CLV)の向上に直結します。ザ・リッツ・カールトンホテルは、このCLVに注目してCS向上に取り組んでいることで知られており、従業員には「20万円の決裁権」を付与していることが有名で、自律的な「逆ピラミッド型組織」が構築できています。

また、サービスの有料化も重要です。日本では「サービスする」という語を「おまけする」と同義で使用する場面が多いですが、これでは付加価値は向上しません。すでに自動車ディーラーの一部では、洗車の有料化、車引取りの有料化などに取り組み始めています。顧客の観点から考えても、おカネを払わない無償サービスに対しては多少の気兼ねがあるはずで、特にロイヤルティーが高い優良顧客ほどその度合いが高いと推測できます。

 

生産性向上は、従業員の処遇改善の原資を生み出し、処遇レベルの向上は結果的に離職率の低下や優秀な人材の採用に繋がります。「分母」と「分子」の両者に目配りしながら対応することは、もちろん容易ではないものの、「人手不足」が恒常化する中では、やるか、やらないかで企業間の格差はさらに広がります。もはや企業存続にとっての最重要課題なのです。

 

以上

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